2013年01月18日

「愛のコリーダ」ってどういう意味?

先日、日本を代表する映画監督の一人である大島渚さんがお亡くなりになられましたね。

けっこうエエ年のオッサンの私ですが、オッサンといってもそこまで年寄りでなくまた映画マニアでもないので、大島さんといえば映画監督というよりTVのコメンテーターのイメージのほうが強いです。

そんな私でも彼の代表作『愛のコリーダ』の名前はもちろん知っています。といっても名前を知ってるだけで観た事はないんですが‥

大島監督は世界的に有名な人なので、訃報は世界的にニュースとして取り上げられたようですが、ブラジルのニュースサイトでもけっこう大きな見出しとなっていました。

"『愛のコリーダ』の日本人映画監督、大島渚氏が死去"
"Morre o cineasta japonês Nagisa Oshima, autor de "O Império dos Sentidos"


"『愛のコリーダ』の大島監督の作品は、破壊とエロチシズムにおけるエポックだった"
"Obra de Nagisa Oshima, de 'O Império dos Sentidos', foi marcada por rupturas e erotismo"


"『愛のコリーダ』の監督、大島渚氏が80歳で死去"
"Nagisa Oshima, diretor de 'O império dos sentidos', morre aos 80 anos"


クインシー・ジョーンズのヒット曲で "Ai No Corrida" というのがありますが、これ実はこの映画の題名が元ネタだそうです。この曲はカバー曲で、オリジナル曲はチャス・ジャンケルという人の81年のソロアルバムにあるそうです。

"Ai No Corrida"──英語じゃないし、スペイン語っぽいけどスペイン語でもない、ナンだかよくわからない綴り、いったいこれは何語なのか???と思った人も多いような気がしますが何のことはない、普通に日本語だったんですね。

曲と映画に直接の契約関係はないようですが、こうやってポピュラーミュージックにインスパイアされた曲名が出てくるあたり、まさに『愛のコリーダ』が世界的な存在だったことの証ですね。

でも『愛のコリーダ』っていったいどういう意味なんでしょうね‥‥‥‥??「コリーダって‥えっと縦笛だっけ?」それは『リコーダー』です。「愛の‥回廊、って事かな?」それは"コリドー"。えーと、寒いオッサンギャグはこれくらいにして‥‥

‥実はこの映画題名のコリーダ("Corrida")はスペイン語の単語からとっているそうです。映画について解説しているサイトなどを見てまわりますと、この映画のタイトルの "Corrida" とはスペイン語の『闘牛』の意味と解説されています。

この映画はかの有名な"阿部定事件"をモチーフに男女愛の極限の姿を描く問題作ですが(すいません、未見ですので他所様のサイトの受け売りです)、そういう激しい血みどろの愛欲の戦いを"コリーダ"すなわち闘牛に例えている、つまり『愛のコリーダ』とは『愛のデスマッチ』の意味である、とこういうわけです(すいません全部受け売りです)。

ところでスペイン語と兄弟のような関係といわれているポルトガル語にも、全く同じ綴りの "corrida" という単語があります(ブラジル式発音では"コヒーダ")。ポルトガル語を勉強していてある日 "corrida" という単語に出くわし、「あーーーっ、あの愛のコリーダってここから来てるのか!!」とちょっと興奮(?)したのを思い出します。

ただし、その時に私が勝手に解釈し納得したタイトルの意味は、男女が走りながら去っていくような『愛の逃避行』あるいは『愛のマラソンランナー』的なイメージで、『愛の闘牛』はまったく想定にありませんでした。なので『闘牛』からインスパイアされたネーミングだったというのは今日初めて知りました。

スペイン語とポルトガル語では綴りだけでなく意味もよく似た単語が多いのですが、しばしば綴りが同じでも用法が違っていたりまったく正反対の意味の単語があったりするので、ポルトガル語のニュアンスがそのままスペイン語で通じるわけでは無い、とまず前置きします。その前置きをした上で少なくともブラジル・ポルトガル語で "corrida" と端的に言った場合、『闘牛』をイメージする事はほとんど無いです。

もしブラジル人が何の脈絡もなくいきなり "corrida" という単語を使った場合、それは「ランニング」または何らかの「レース」のイメージだと思います。例えば陸上競技だったりとか、車のレースみたいなものですね。

corrida は『走る』という意味の動詞 "correr" の過去分詞の形が名詞になったもの(動詞の形容詞化: obrigar → obrigado と同じパターン)で、同じような形式としては例えば

comer (食べる) → comida(食べ物)
beber(飲む)→ bebida(飲み物)
vestir(着る)→ vestido(服)

なんかがあります。これらは規則的な変化ですが、もちろん不規則な変化もあってそれらは個別に覚える必要があります。といっても変態的な不規則変化は少なくて、なんとなくルールがあるっぽいので慣れるとそこまで面倒ではないです。例えば

morrer(死ぬ)→ morto(死人)
ver(見る)→ vista(視覚、外観)
imprimir(印刷する)→ impresso(印刷物)

みたいな感じ(ちなみにポルトガル語の過去分詞では、規則系と非規則のどっちも普通に使える場合があるんですがその説明は長くなるので割愛)。

要するに動詞を過去分詞形にすると「何々をするモノ」的な意味合いの名詞になるわけです(なんとなく自然にこういうもんだと納得してしまってましたが、これって文法書にこういうルールの説明ってありましたっけ??詳しい先生の方教えてpor favor!!)

というわけで、"corrida" という単語は『走る』という動詞から派生して『走ること』『レース』という汎用の名詞に変化するわけですが、これに形容を付け加える事で色んな『競技』を表現することができます。

たとえば前置詞 "de" をくっつけて "corrida de ほにゃらら" とする。このほにゃららの内容次第で『○○のレース』と出来るわけですね。

たとえばカーレースは "corrida de carros" あるいは "corrida de automóveis"などと表現します。"carro" は車輪でころがす『車』全般のことですが一般には『自動車』をあらわすことが多いです。

"carro" の代わりに飛行機を意味する "avião" を使って "corrida de aviões" あるいは "corrida aérea" というと『エアレース』のこと。

"corrida de cavalos"(cavalo =『馬』)または "turfe" というのは『競馬』の意味です。

ちょっと変わったところでは "a corrida espacial" (espacial = 『宇宙の』)と書いて米ソの『宇宙開発競争』の意味になったりします。

では人間のレースであるマラソンは何でしょう? 人間のレースだから"corrida de humanos"‥‥? 実はマラソンはオリンピック由来のスペシャル競技なため特別扱いされていて、そのまんまな "maratona" という単語があります。

もっとも普通に人が走る競技やランニング全般は単に "a corrida", "uma corrida" でだいたい意味が通ります(なので、いきなりこの単語だけ出されて『ランニング』は想像できても『闘牛』をイメージするのは難しい)。決められたコースを参加者を募って走るのは "corrida de rua" (rua =『道』)、レギュレーションがある走る競技全般は"corrida pedestre"(pedestre =『徒歩の』)などと言うようです。

さて話を戻して、ポルトガル語で『闘牛』を何と言うかというと、これは "tourada" または "corrida de touros" と言います。

※スペイン語の場合も同様に『闘牛』のちゃんとした表現は "tauromaquia" または "corrida de toros" となるようです。

"touro"(スペイン語では toro)というのは『去勢されていない雄牛』のこと。つまり "corrida de touros" を、愚直に直訳すると『去勢されていない雄牛の走り』です。

去勢された牛(種付け用でない肉牛)は "boi" といいます。牝牛は "vaca" です。ここらへん日本と違い、あちらは肉文化で結構細かいので注意です。日本だと「ブリ」と「ハマチ」は違うけどブラジルじゃ全部"peixe"(魚)みたいなもんです。

※ちなみにスペイン語でも同じパターンで "toro/buey/vaca" と区別があるようです。

もっとも、牛をひとめ見ただけでソレが去勢されてるか解剖学的に正確に判別できるわけは無いんで、たとえば子供が描いた牛の絵を指差して "boi" とか言ってても本当に去勢牛かどうかわかりませんし本当は "vaca" をモデルにした絵だったりするかもしれません。

ただ見るからに乳搾りしてる牛を "boi" とは言わないし、闘牛場の角があって戦闘意欲満々の牛を "vaca" とはまず言わない、それくらいの感じで捉えればオッケーです(しかも boi/touro はネイティブでも意外とごっちゃになってる場合があるみたい)。

闘牛といえばスペインですが、ブラジルの旧宗主国であるポルトガルでも闘牛は盛んで現代でもポルトガルでは闘牛が行われています。ただスペインと様式がいくぶん異なり、たとえばポルトガルの闘牛は最後に牛は殺さないそうです。

ブラジルにも19世紀初頭にポルトガル王がナポレオンの侵略から逃れて渡ってきた際に闘牛が伝わり南部を中心に人気があったようですが、1934年に当時のヴァルガス大統領が闘鶏とともに禁止しました。ブラジルの闘牛がどんなものだったか知りませんが、昔ブラジルで行われてた闘牛もスペイン式ではなく殺さないポルトガル方式だったかもしれませんね。
posted by blogsapo at 00:49 | Comment(0) | TrackBack(0) | ポルトガル語雑学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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