2013年12月13日

WALKMAN NW-F886 レビュー:買って残念になる音質

さてちょっと間があきましたが、ハイレゾ・ウォークマン NW-F880 レビューの続きやります。

この4週の間にたっぷりと NW-F886 で聴き倒しましたので、音質についての評価もやります。

結論をチョロッと先に言うと『買って残念になる音質』…さてその心は?それは最後まで読むと書いてあります。

- 初回起動時の設定について -

購入して初めて起動した時には、各種の初期設定項目を入力する必要があります。たまに勘違いしておられる方がいらっしゃるんですが、この初期設定の際に充電目的以外の理由でパソコンに接続する必要はありませんし、パソコン側にソニーやグーグル提供の何らかのアプリをインストールしておく必要もありません。設定はすべて端末本体で行います。

長たらしい利用規約を読みもせずにさっさと飛すと(いや、もちろんジックリと読んでも良いですよ…本来は読むべきものです)、まず利用言語の設定になりますが、またしても『日本語』と『英語』しか選べませんので、素直に『日本語』を選択します。

nw-f886-setup-0.jpg

この言語設定については、どうやら内部的には標準的な Android 端末にあるような多国語は全部組みこまれていて単に表示制限がかかっているだけらしく、あるアプリを使うと制限解除が可能という情報を見かけたのでそのうち試してみたいと思います。

次に WiFi の接続設定を行いますが、ここはちょっと前の Android バージョンではスキップできなくなってたような記憶があるのですが、またスキップできるようになっていました。

nw-f886-setup-wifi.jpg

WiFi 接続抜きでは Android の利便性の大部分が死んでしまいますし、本機の場合はミュージックプレイヤーのアップデートすら出来ませんので、いずれ WiFi の接続は必須ではあるんですが、利用できる WiFi が無い場所で初期設定してるようなケースもままありますし、あるいは“急に言われても調べないとパスワードわかんないし何でもエエからとにかく早う音楽聴かせんかい!コラー!!”というようなシチュエーションも有り得ますので、ここはスキップ出来るようになっていてしかるべきだと思います。

WiFi を設定するなりスキップなりすると、次はグーグル先生から「チミはもうGoogleアカウントあるんかね?ン?」と尋ねられますので『はい』か『いいえ』で答えます。

nw-f886-setup-acc-0.jpg

グーグル・アカウントというのは読んで字のごとく Google の各種サービスにログインするためのアカウントで、『ユーザー名(ログインID)』は名前とかハンドルネームとかではなくメール・アドレスになります。

グーグルだからひょっとして Gmail じゃないとアカンのかしら? と思ってしまいますが、Android の端末上で新規作成する場合は自動的に Gmail になってしまいますが、パソコンのブラウザ等でアカウント作成してから既存アカウント扱いで端末に登録する場合は、別に MSN でもヤフーでも他のフリーメールとかのアドレスでも使えます。

端末で操作を全部完結すると“Googleアカウント作成=Gmail作成”となるので両者は同じものかと思ってしまいますが、厳密には“Googleアカウントで利用できるサービスの一つが Gmail”です。

ただ、個人的な経験上 Googleアカウントは Gmail で使うほうが何かと都合は良いようです。そもそも Gmail の受信BOXを見ようとしてログインするとその時点でグーグル・アカウントによるログインをしていることになり…であるならば、Gmail アドレスがあるなら既に Android で利用可能なグーグル・アカウントを持っている、という事になります──ってな事が、まさに上のスクリーンショットの中にも書いてあるんですね、はい。

またもうひとつ重要なポイントなんですが、既に何か Android 端末を持っていてそれの GooglePlay で有料アプリを購入している場合は、そのアプリ購入時に使ったアカウントと同じアカウントを本機に設定すれば、改めて支払いしなくても購入済みアプリをインストール出来ます。逆にもし本機では違うアカウントを設定、あるいは新規にアカウントを作った場合は、以前買ったアプリであっても購入しなおす必要があります。

なおグーグル・アカウントは後から追加することも出来るので、じっくり考えてから後でやりたい場合は初回起動時にはとりあえずスキップすることも出来ます。

その場合まず『Googleアカウントをお持ちですか?』に『いいえ』で答え、次に『今は設定しない』を選択することでスキップして、後で準備出来た時点で設定アプリから『+アカウントの追加』→『Google』と選択することで追加出来ます。

nw-f886-setup-acc-gen.jpg

このようにしてGoogleアカウント設定をスキップしてGoogleアカウント設定無しの状態であっても、とりあえず音楽プレイヤーとして利用する分には特に問題なく使うことが出来ますし、WiFi 接続していればブラウザでネットを見たり、WEBメールを見たりすることも可能です。ただし、GooglePlay からアプリをインストールすることは出来ません。GooglePlay を使うには Googleアカウントの追加が必須になります。

Googleアカウントの設定の後は『位置情報の利用』についての設定画面になりますがこの操作が微妙にわかり辛い。わかってしまえばどうということは無いのですが、要は下三角マーク(▼)でスクロールというかページ送りすると出てくる右三角で次へ進めます。

nw-f886-setup-setting-geo.jpg

この位置情報利用の設定はとりあえずチェックを OFF にしといても OK ですが、GoogleMap アプリを使う場合は嫌でも ON にしないとマトモに機能しません(GPSによる位置特定の速度と精度がものすごく悪くなる)。逆にマップを使う気がなければ常時 OFF でも問題ありません。

位置情報の次は日付と時刻の設定ですが、ここは WiFi 接続が完了している場合は自動で合うはずですが WiFi に接続していない場合には自分で正しい時刻を設定します。

その後『この携帯端末の所有者』なるものを入力する画面になりますが、コレが何モノなのか未だによく判りません。“一部のアプリをカスタマイズする際に使う名前がどうたらこうたら”とかいう説明書きも何のこっちゃ意味がサッパリわかりませんが、現状では何も入れずに空欄でも次に進めますし、空欄で利用上も問題はないようです。

nw-f886-setup-setting-owner.jpg

最後に Google サービスへの同意確認があり右三角で次へ進むといよいよフィニッシュ直前です。

やれやれ完了か、と思いながら『完了』ボタンを押すと…

nw-f886-setup-finishing.jpg

…またしても何かを選択する画面がッ!!

nw-f886-setting-sony.jpg

ヲイヲイ完了したんちゃうんかい!!とツッコみながら読むと、ここまでは Google Android の初期設定だったんですが、この画面は「この際ぜひ SONY へも情報提供にご協力ください!」という内容。『操作履歴の送信』とかなんとなくストーカーっぽくて気持ち悪いので、ここはきっぱりと『いいえ』を選択。ごめんなさいソニーさん。

nw-f886-home.jpg

ようやくホーム画面にたどりつきました。

…なんか画面が暗いなぁと思い、ホームを横スライドすると見慣れた設定ウィジェットの画面のバックライト設定アイコンを発見。

nw-f886-backpanel-set-0.jpg

さっそく明度最大にします。

nw-f886-backpanel-set-1.jpg

明るくなりました。

こうすると当然バッテリの消費は速くなるのですが、個人的には明るさ最大で画面の鮮やかさを楽しみつつネット接続他の管理の方をメインにバッテリをセーブするやりかたが好みです。

この液晶は解像度こそ Z とたいして変りませんが、パッと見でも品質は明らかに向上していて発色がかなり自然な感じなので、せっかくだから明るい画面で見たいですよね。

というわけで、4週もの長期にわたる(?)開封の儀を終了し、ここからはこれまで使っていた Walkman NW-Z1060 と比較しながら NW-F886 がどれくらい改良されているかという点についてレビューしていきます。

- Walkman Z と何が違う? -

ガジェットのライフサイクル的に、初代アンドロイド・ウォークマン NW-Z1000 シリーズからこの機種への買い換えを考えてる人は割と多いような気がします(私自身そうでした)。

そこで、私が今まで使っていた NW-Z1060 (32Gモデル)とスペック的に何が変ったかを列挙してみました。

項目 NW-Z1060 NW-F886 評価
1 寸法/重量 70.9x134.4x11.1mm/156g 59.9x116.6x 8.5mm/103g グッド(上向き矢印)グッド(上向き矢印)
2 アンプ "S-Master MX" ハイレゾ対応 "S-Master HX" グッド(上向き矢印)グッド(上向き矢印)グッド(上向き矢印)
3 ハードキー 音量, W.ボタン 音量, プレイヤー操作3ボタン グッド(上向き矢印)グッド(上向き矢印)
4 液晶画面 TFT 800x480 TFT 854x480 グッド(上向き矢印)
5 プロセッサ nVidia Tegra2 1GHz T.I. OMAP 4 (Cortex-A9) 1GHz グッド(上向き矢印)
6 バッテリ持続(NCオフ) 34時間(システムアップデート後) 35時間 同等
7 バッテリ充電時間 約5時間 約3時間 グッド(上向き矢印)グッド(上向き矢印)
8 NFC(近距離無線通信) グッド(上向き矢印)
9 HDMI出力端子 バッド(下向き矢印)
10 電子コンパス バッド(下向き矢印)
仕様詳細リンク NW-Z1000シリーズ仕様 NW-F880シリーズ仕様 -

黄色の行は改良された箇所で、灰色は劣化した項目です。

4番の液晶についてはサイズが小さくなり解像度が微妙にかわった事の他に、『トリルミナス(R)ディスプレイのモバイル版』搭載となっており発色が良くなっています。

こうして表にしてみると改良項目は案外多く、費用対効果つまりお買い得感はけっこうあるんじゃないかと思います。これが前モデルの NW-F800 シリーズですと黄色のアゲアゲ項目のうち、1.の寸法と7.の充電時間以外は消えてしまいます。

逆にオミットされてしまった機能もありますが、地味に目立たない消えた機能として『電子コンパス』があります。このため、本機でグーグルマップを使うと自分の立ち位置は GPS でわかるんですが向いている方角がわからなくなる、といったような事になります。

実はグーグルマップの場合は移動している時は加速度を検知して移動方向を表示してくれるので、電子コンパスが無くてもそんなに困らないんですが、例えばストリートビューだとかサードパーティアプリでアッチャコッチャ向きを変えて色んなランドマークやら施設を表示してくれるようなアプリだと電子コンパスが必要なので NW-F880 シリーズではそういった機能は使えない、ということになります(もっとも、そのタイプのアプリはカメラが必須な場合が多いですけど)。

- アンドロイド端末的に、性能どうなん? -

ハードウェア的に大きな変更点として、プロセッサの変更があります。前のモデルまで nVidia の Tegra2 だったのが本機では テキサス・インスツルメンツの OMAP 4 になりました。

これによって何が変わるかのかというと、ぶっちゃけてそんな劇的に目に見えてスゲェ!!というほどの変化は無いです(ええっ!?)。

ただ、プロセッサに統合されている GPU が nVidia 系から PowerVR 系になるため、3Dゲームなんかではテクスチャの見た感じが若干雰囲気違ったりする可能性はありますね。

両者のカタログスペック的な速度は似たようなモンだとされてますが、OMAP 4 のほうがモバイル寄リにオプティマイズされていて体感上は速く感じるなどと言われることもあるようです。そう言われると、なんとなく Z と比較して動作がスムースになったかなーという感じはしない事もないです。

RAMも以前のモデルの512MBから1GBへ増加してるようですが、これにより今まで開けなかった巨大データが開けるようになったり、マルチタスクで別アプリから戻ってくるとアプリが再起動している(メモリ不足のため勝手に終了している)、というようなことは減るかもしれませんね。

本機は Android 搭載なのでどうしてもスマホと比較したくなりますが、最新のスマホほどのスペックはなく正直やや型落ちクラスのスペックではあります。…が、3Dゲームアプリなどを遊ぶのにも不足のないスペックはありますし音楽プレイヤーとしては申し分無いかと思います。

ただ、カメラが無いので例えば WiFi ルーターと組みあわせてスマホ的に使おうとすると、そこらへんがネックになってくるので注意が必要です。

搭載されている Android OS は Version 4.1 で、最新ではありませんがほぼ現行版の OS となります。

日本製アンドロイド端末の出始めの頃とは異なり、NW-F880 組み込みの Android はソニーによる積極的なOSカスタマイズはされておらずほぼグーグル提供の素の状態のままに見えます。なので、GooglePlay で提供されるたいていのアプリは不具合なく動きますが、本機はカメラが無いのでカメラを要求するアプリは動かない(そもそも検索で出てこない)か、動いても意味がないので注意です。

最近のソニーはえらくヤル気マンマンなので、OS バージョンアップの可能性もやや期待出来ますが、今のところ本機に関して Android OS バージョンを積極的に更新していくというアナウンスはされておりません。

- ドロイド君とかそんなんはどうでもええねん、音どうやねん音はっ!!?? -

まぁ、アンドロイド君はオマケみたいなもんで、やっぱり皆が気になるのは音ですよね。NW-Z1060 と比べて音質はどうなったのか? そこを語らないことには本機のレビューは意味がありません。

ただオーディオの音質の評価はどうしても主観の世界になってくるので、好みや認識の個人差が大きくて文章で伝えるのが非常に難しいというのも事実です。よって音質については、あくまでもワタクシの聴覚上の主観的な印象による感想の話になります…

…などと、ズル賢くあらかじめ逃げ口上を打った上で、コンポ・オーディオで育った平凡な耳の持ち主であるワタクシの評価を述べましょう。

NW-F886 の音質。これ明らかに Z より良くなってます。

何年か前にアンドロ君ではないメモリウォークマンである NW-A846 の音を初めて聴いた時に「おッ!これはいままでの mp3 プレイヤーとは明かに違う!」と感心したのを覚えていますが、NW-F886 もそれに近い感触がありました。

全体のおおまかな音の傾向としてはほぼ NW-Z1060 のキャラクターを引き継いでいて、極端なチューニングの違いは無いのですが(よってエージング無しですぐ耳に馴染みます)、まず一聴して気がついたのが、低音が自然にリッチになっているという事です。イコライザーあるいはそれに準じる周波数変換の操作で低音を太らせると不自然にモコモコと低音が厚くなりますが、本機の太さはそういう不自然な強調でない、空気感のある太さなんですね。

一番これがわかるのが、サンバの重要なリズム楽器であるスルドの音で、スルドの音ってオーディオで再現すると痩せてしまって空気全体が震動してるような感じがどうしても欠けてしまうんですが、ポータブル機のmp3のファイル再生なのに、ここまでスルドの音を表現出来ているのはなかなかスゴイと思いました。つまり、スルドの音を鋭く再現してい…イヤ、なんでもありません。忘れてください。

同様に、ベースとバスドラがユニゾンしているようなパターン…というのは軽音楽では基本中の基本のパターンですけども、これの聴き心地が引き締まった感じになってリズムパターンの疾走感が心地よく感じられるようになっています。

また乾いた音のパーカッションの早いフレーズとギターのカッティングが絡むようなサウンド…っていうのは典型的なサンバとかボサノヴァ的な楽曲ですけども、こういうサウンドでは全体の空気感が増してリズムのノリも良く感じられます。

トータルでみると、アコースティック楽器中心の特にパーカッションが多い楽曲において音質の向上が感じられる傾向で、まさにサンバやボサノヴァに最適化されたようなチュニーングではないかと思いました…ん?むむっ!!なるほど!!だから ぴかぴか(新しい)FIFA WORLD CUP BRASIL 公式 mp3 プレイヤーぴかぴか(新しい)なのかあーっ!!(前回のエントリ参照)

本機はハイレゾ対応機種ではありますが、今のところハイレゾの手持ちコンテンツが無いのであくまでも既存のmp3ファイル(大半が 192k-320kbps 44kHz の mp3)を聴いての結果がこれなので、この音質改善はたぶんデジタル・アンプ S-Master HX の電源部の改良による効果が大きいのじゃないかな、と推測しています。

ソニー公式の宣伝文句によると S-Master HX ではアンプの電源を4つにする事でステレオの分離を良くしているということですが、Walkman Z まではクリア・ステレオを入れて常用していたんですが、NW-F886 ではこれはもう OFF で良いと感じました。

NW-A846 ではイコライザーで若干音質を補正して常用していて、次の NW-Z1060 ではイコライザーは基本 OFF、音源や気分でたまに変える、という感じで使っていました。今回の NW-F886 は Walkman Z 以上に非常にバランス良くまとまっていると感じましたので、イコライザーは基本 OFF で常用する予定です。

というわけで、普通にアンプのアナログ的な性能が向上して音質が改善してるのは確かなんですが、それではハイレゾ対応による音質の改善はあるのか…?これについてはワタクシの感想では微妙にあるような気がする、という程度にとどまります。

ただこの感想は“DSEE HX アップデートの前で非ハイレゾの普通のmp3ファイルを聴いた場合”という但し書きつきです。12月後半と事前アナウンスされていた Fシリーズの DSEE HX のアップデートがつい先日早々に公開となり、最近の SONY なかなかヤルなあと感心しつつも、まだアップデートしておりませんので、DSEE HX についてはアップデート後にまた色々聴いてみて確認してみようと考えております。

DSEE HX は前回のエントリでもちょこっと解説しましたが、非ハイレゾのファイルを再生するときに補完処理をしてハイレゾ相当にサンプルデータを拡張する機能です。DSEE HX を使わない場合はこれまでと同じ非ハイレゾ音源スペックでの再生になりますので“音波形の細かさ”という観点での差は原理的にはでてこないはずですが、デジタルアンプ──というより今日のポータブル向けDACの大多数に採用されているΔΣ型変調方式──の仕組み上、最終的なアナログ波形に変換する際に可聴帯域外の超高周波ノイズ(量子化ノイズ)はフィルターでカットしますがこのフィルターがハイレゾ対応デジタルアンプとそうでないものでは性能が異るため、場合によってはいくらかの音質的な差がでてきている可能性はあるかもしれません。

あともうひとつ、残念ながら加齢によってワタクシの耳の高周波域の聴き取り能力が若いころに比べ劣化しつつあるのは明らかなので、実際には高音域もかなりの改善が成されているにもかかわらずワタクシの耳が聴きとれていない、という可能性もかなりあります…いや、認めたくないが、やっぱりこれが真相かな?

そう考えると自分がオッサンであることが残念になる機種ですねこの機種は。逆にいうと、若い人にはどんどん高音質な音を聴いて今のうちに楽しんでもらいたいですね。ま、オッサンの余計なお世話ですね。

ウォークマン F のレビューはまだ2回ぐらいやります(一応年内で終らせる予定)。
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2013年11月17日

ハイレゾ・ウォークマン NW-F886 を買うてみたぞ

以前ここで「ポータブルオーディオについてはもう、ソニーはやる気ないんちゃうか」みたいな事書いたのですが、すみませんソニーに土下座して謝ります。どうやら最近のソニーさんは覚醒しつつあるようで、このところ各分野でアレやらコレやら意欲的な商品をやたらと展開していて、オーディオにおいても"ハイレゾ・オーディオ(Hi-Res AUDIO)"を旗印にした一連の戦力を投入し気合の入った攻撃をしかけている模様です。

最近デジタルオーディオ界隈でよく耳にするようになった『ハイレゾ音源』ですが、これはいったい何ぞやと申しますと実のところ「高解像度ディスプレイ」なんかと同じ宣伝文句の一種なので、規格化された明確な定義というのは無かったりするんですけども、一般に「CD音質を超えるスペックのオーディオ」を差すとされています。ソニーの公式サイトでも自社の"Hi-Res AUDIO"とは「CD(16bit/44.1kHz)を超える高音質オーディオのこと」と定義しているようですね。

今年12月にはハイレゾ・ウォークマンのフラグシップモデルと言うべき ZX1 の発売が控えているのですが、そのリリース前に昨年度モデルのウォークマン NW-F800 シリーズの後継となる NW-F880 において、このソニー・ハイレゾ・オーディオ戦略の心臓部であるところのデジタルアンプ"S-Master HX"を搭載してきました。

フラグシップモデル ZX1 のほうの小売価格は7万5千円程度になるようですが、こっちはミッドレンジのウルトラブックが買えそうな値段だけあって同じ S-Master HX アンプでもアナログ部分がより高音質を目指したものになっていたり、容量も 128GB と大容量になっています。見た目も値段相応に高級感のあるデザインになっていて、旧 Z シリーズの NW-Z1000 よりは軽くコンパクトではあるものの NW-F880 にくらべるとやや大柄なボディとなるようです。

このように ZX1 はフラグシップモデルにふさわしい貫禄のあるスペック/デザインなわけですが、2年前 NW-Z1060 を購入したとき「ガタイがデカすぎる!!」とサイズについて散々酷評したワタクシとしては、昨年度に発売されグンとコンパクトになった Android Walkman である NW-F800 には実のところだいぶ食指を動かされかかっていました。…が、昨年の F モデルはAndroid の端末的にもオーディオ性能的にも NW-Z1060 と同等か劣化版にしかなっていなかったので、購入は結局見送ってしまいました。

…で、今回の NW-F880 の登場です。NW-Z1060 の大きさにも慣れてしまい音的にも不満はなかったのですが、もし性能が更新されてさらにサイズもコンパクトになるならそれに越したことはない…というかむしろ、そういうものが欲しかった。私の NW-Z1060 バッテリもだいぶヘタってきてますし、これは買うしかッ……!!

というわけで購入しました。

nw-f886-unbox-0.jpg

今まで使っていた 32G の Android Walkman Z で特に不足を感じなかったので、今回も 32G を選択、ボディカラーは白にしてみました。最初は黒かなーと思っていたのですが、店頭で実機を手にしてみるとブラックは背面についた指紋がちょっと気になる感じだったので止めました。

本当はハイレゾ音源を再生することを考えるなら容量はがっつりと必要になってくるのですが、記事冒頭からハイレゾ、ハイレゾと連呼しているわりには個人的に音源ソースとしてのハイレゾにはさほど興味のないワタクシです。

…いや、ホンマはむっちゃ興味はあるんですけど、そもそもハイレゾ音源って自分で用意するモノではなく(できない事はないが、あまり意味はない)音楽コンテンツの配信側で用意してもらわないといけないんですけども、ソニーさんの新戦略としてまだ始まったばかりということもあり、まだまだラインナップが充実しているとは言えないようです。一応おおざっぱにソニーの音楽配信サイトを検索もしてみたんですが、一番ありそうなボサノヴァの古典的名盤関連ですらハイレゾ音源版を見つけられなかったので、仮にソニーのハイレゾ戦略が順調にいったとしても私的に欲しいコンテンツが充実してくるには正直まだ数年はかかりそうな雰囲気です。

- 何故ハイレゾなのか -

そんじゃ、今までと同じ有りもののファイルを再生するんだったらハイレゾ対応デジタルアンプにしても意味ないんでは…? たしかにもともとの音源ファイル自体から全部をハイレゾ化するのが理想ではありますが、今までと同じファイルを再生する場合においてもアンプが高解像度化する事に意味が無いわけではありません。簡単にいうと『大は小を兼る』という側面があるんです。

元の音楽ファイルが mp3 だったり flac だったり wav だったりどんなフォーマットであるとしても、最終的にアナログの音波形になって出てくる前に一度デジタルデータからアナログ波形に変換する回路に入ることになりますが、これがいわゆる DAC (Digital-Audio Converter) およびデジタルアンプと呼ばれるもので、この回路の性能いかんで出音の質がかわってくるわけです。近頃はパソコンに外付けの DAC+アンプをUSBで接続してオーディオ・システムを構築するのがちょっとしたブームになったりしてますよね。

で、ウォークマン NW-F886 の場合その機能を受け持つのがまさに売り文句であるところの "ハイレゾ音源対応 S-Master HX" というわけですが、再生しようとしてる元の音楽ファイルが同じであっても、ハイレゾ対応でないこれまでの S-Master と違い S-Master HX ではハイレゾ相当のより高ビット、高レートのデータを受けいれることが可能になります。つまりデータをハイレゾ相応に補完して拡張したデータにして入力すれば元データがハイレゾ音源マスタリングされているものほどでなくても、ある程度の高音質化が期待できることになります(もっとも、アップサンプリング処理は原音データに無いものを加えるので良くない、という"ピュア"な意見もあります)。

ハイレゾでない旧モデルのウォークマンにも "DSEE" という圧縮オーディオに対して失われた高音域を補完する機能がありましたが、同様な発想でハイレゾでない既存音楽データに対してハイレゾ音源データ相当になるように補完処理しよう、という考えです。言うまでもないことですが、ハイレゾ化補完処理をいくら頑張っても入力されるDAC側にハイレゾデータを受け入れるキャパシティが無い場合は、結局またCD相当のデータにダウンコンバートしてからDACに入力するしかないので、何やってんだかさっぱりわからない骨折り損のくたびれもうけとなってしまいます。しかし『大は小を兼る』S-Master HX ならそういうことを色々とやれる可能性がある、というわけです。

ちなみに"そんなことができる可能性"みたいに語ってますが、なんのことはない NW-F880 シリーズの宣伝文句の一つとして掲げられてる "DSEE HX" というのがまさにソレそのものなんですが、現状ではまだ実装されておらず、ソニーのアナウンスによると 12月に予定されているアップデートにて NW-F880 シリーズに提供されるようです。ひよっとして ZX1 の発売と同時ぐらいなんでしょうかね?

この『大は小を兼る』効果の他にも NW-F880 の S-Master HX の解説を読むと、アンプのアナログ回路自体にも改良を施しているようなので、ハイレゾ処理とか無関係に普通にナンボか昔の S-Master より音が良くなっているのは確実と考えられます。

さてさて能書きはこれくらいにして、さっそくその S-Master HX の実力を聴いてみるべく開封の儀の開始です。

- 開封の儀 -

発売直後の購入特典でしょうか、2つオマケがついてきました。

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ソニーの音楽配信サイトの mora の250円分の無料券と、液晶拭きです。非売品だそうですので液晶拭きは棚にしまっときますかね。ひょっとしたらプレミアつくかも…(無理)。

NW-A846 はマレーシア製、NW-Z1060 は Made in China でしたが、NW-F886 は Made in Malaysia に戻っています。

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Z の時と比べるとえらく貧乏くさくなった化粧箱をなにげなく眺めていたら…

nw-f886-unbox-1.jpg

うぉおおおーっ!!なんですかこれは!!

ぴかぴか(新しい)ぴかぴか(新しい)"FIFA WORLD CUP BRASIL 公認 MP3 Player" ぴかぴか(新しい)ぴかぴか(新しい)

ですってよ!!! 素晴しすぎます。もうこれ見た瞬間に、私がコレを購入するのはいずれ運命付けられていたのだというのをはっきりと悟りました。

ま、冷静に考えたらFIFA公認 mp3 player て意味がようわからんのですけど…そんなことはいいんです!!

それにしても箱を家であらためて見るまで全然気がつきませんでした、ホンマ偶然です。こうなったからには、ここからはウォークマン全面プッシュでいきます。皆さん、ポータブルオーディオプレイヤーならハイレゾウォークマン買いましょう。特にブラジルが好きなアナタ!そう、アナタですよ!!

…化粧箱眺めるだけでアホみたいに異様にテンション上がってしまいましたので、カルピス・アサイ・ウォーターを飲んで落ちついてから…

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…開封しました。

今回から同梱のノイズキャンセリング・イヤホンが変更になったようです。

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NW-A846 も NW-Z1060 も(私は所有していませんが NW-F800 シリーズも) MDR-NC33 が同梱されていましたが、今度の NW-F886 同梱品の型番をみると MDR-NC31 となっています。2ほど数字が減ってるのがやや気になるところではありますが…まあ今までと同等品とみて良いでしょう。

ジャックのところには NW-F800 同様に、WM-PORT のカバーキャップがついてます。これは地味に便利そうですね。

nw-f886-unbox-earphone-wmport-cap.jpg

この頃のこういう感じのデジタルガジェットには珍しく、これでもか、というくらいの取説一式がついてきます。

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かなり細かいことまで立ち入って書きこまれているので、Android Walkman を初めて使うような人でも真面目にしっかり読めばひととおり使えるようになっています。ひと昔まえの良質な日本の家電製品みたいで、これは好印象ですね。

これまでのウォークマンと同様、一般のアンドロイド端末と違って普通の microB や miniB の USB ソケット ではなく、WM-PORT というソニー独自の USB ソケットで接続しますので、そのケーブルが付属します。

nw-f886-unbox-wmport-cable.jpg

充電器は付属せずこの WM-PORT ケーブルでパソコンの USB ポート、あるいは別売の USB 充電器に接続して充電します。別売の USB 充電器は SONY から正式な対応アクセサリーが出ていますが、量販店で売っている適当な USB 充電器でもたいていは使えます。ただし、USB 充電は容量などの条件があるので、もしうまく充電できなかったりしたときには SONY にキッチリとクレーム入れないと気がすまないような場合は SONY 公式アクセサリを購入して使いましょう。なお、サードパーティ充電器はあまり粗悪なものだと火災の原因になったりしますので、あまりにチープすぎる品はやめたほうが無難です。

私は毎度のように、これ(Simplism DUAL USB Air)

simplism-dualusb-air.jpg

を使ってみましたが、無事充電することが出来ました。

見た感じでは付属 USB ケーブルはこれまでの非ハイレゾ機に付属のものと同等品に見えます。今回の NW-F880 からは WM-PORT からハイレゾ用デジタル音声出力が可能になっている筈なんですが、そういう用途の際には付属のケーブルではなく SONY WMC-NWH10 という変換ケーブルを間にカマすようです(つまり接続側の機器に付属しなかったら別途購入しないといけない)。

ためしに、同梱品ではなく NW-A846 に付属してきた WMPORT-USB ケーブルを NW-F886 に繋いで充電に使ってみましたが、普通に充電できるようです。ただし、毎度念押しで書いてますが、こういうのはたまたま使えてるように見えるだけでほんとうは何か恐しいことがちょっとずつ進行していて、ある日突然大爆発しないとは言い切れませんので、細かいことが気になる人は素直に付属品をマニュアルどおり使いましょう。

じつは USB ケーブルもイヤホンも NW-A846 の付属品をずーっと NW-Z1060 で使い回してきたんですが(なので Z の付属品は新品で箱に入れたまま)、イヤホンも WM-PORT ケーブルもとくに断線するようなこともなく3年間普通に使えています。以前使っていた iPodTouch に付属のケーブルは一年もするとケーブルの付け根がグダグダになって被覆がズルムケになってましたが、一般の"ソニータイマー"という不名誉なイメージにもかかわらず、ウォークマンの付属品は意外に頑丈にできているようです。

付属品の話はこれくらいにして、いよいよ本体です。

nw-f886-unbox-face.jpg

平面形の面積はけっこうあるんですが、薄さと軽さのおかげで手に持った感じは、かなりコンパクトな印象です。これならギリギリ胸ポケットにも入れてもいけそうですね。

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あちこちでさんざん取り上げられてますが、アンドロイド・ウォークマンとして初めて再生/停止/送り/戻しの物理ボタンが付きました。うむ、これは良い!! これでいちいち取り出してタッチパネルで操作しなくてもプレイヤーをコントロールできます。

nw-f886-unbox-bottom.jpg

底のジャック等がある部分のデザインがややメカメカっぽい感じになり、白モデルは黒いネジがけっこう目立ちますがワタクシ的にはこの雰囲気は嫌いではないです。画像の右の穴はストラップ穴です。

nw-f886-unbox-back.jpg

背面です。ウォークマンのロゴの部分はスピーカーのようです。全体にソツなくまとまったエエ感じのデザインと思います。右下のピンホールみたいなのはリセットボタンです。フリーズしてどないもこないならんようになったときに、ヘアピンの先とかで押します。といっても私は NW-Z1060 でリセットボタンを使った記憶は一度もありません(フリーズして10秒ぐらいしてから勝手にリセットしたことは何度かある)。

全体の質感は悪くはないですし、チープ感はありませんが高級感溢れるというのとも違います。安くないカジュアルな感じ、というところでしょうか。筐体はアルミを使っているそうですが、手触りがたしかにプラスチックと違います。3万円のガジェットとしてはなかなか好印象、といったところです。

恒例の大きさ比較やってみました。

nw-f886-comparacao-dos-tamanhos.jpg

所持している iPod Touch は3年以上前の4世代です。現行モデルはもっと薄くスリムな縦長デザインに変っています。

NW-F886 は Walkman Z より薄くなっていますが、 NW-A846 (非アンドロイド機)よりは厚みがあります。

nw-f886-comparacao-das-espessuras.jpg

電源を入れてみました。すっかり見なれたウォークマンのロゴがお出迎えです。

nw-f886-unbox-switched-on.jpg

NW-A846 や NW-Z1060 との聴き比べなど、2,3回に分けてレビューしてみたいと思います。
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2013年10月21日

シキーニャが生まれたから10月17日はMPB記念日

ボサノヴァを含むブラジリアン・ポピュラー音楽全般を"MPB"(エミ・ペー・ベー, Música Popular Brasileira)と呼びます。狭義ではボサノヴァ以降の時代でボサノヴァ的なシンガーソングライタースタイルの音楽を差す場合もありますが、原語の字面通りな意味でポピュラーミュージック全般を広く意味することも多い用語です。

さて数日前の話ですが、10月17日はブラジルの法律で定められた記念日のひとつ『MPBの日』でした。知ってましたか?

私はついこないだまで全然知りませんでした。…ふふん青二才め。そんなもんはブラジル音楽マニアの基本中の基本じゃろうが、何十年も前から知っとるわ若造がっ!!!…と思ったアナタはたぶん、記憶に問題があるかホラ吹きの気があります。

じつはこの日、ほんの去年できたばっかりの記念日だそうです。

"Você sabe por que hoje é o Dia Nacional da MPB?"
"どうして今日がMPB記念日なのか、わかるかな?"

ブラジルの新聞フォーリャ・デ・サンパウロの公式サイトの子供向け記事ページ Folhinha の参考記事(2013/10/17付け)のリンク

昨年から、10月17日はブラジル・ポピュラー・ミュージックの記念日になりました。

この日は、ブラジルにおける最初の女性作曲家であるシキーニャ・ゴンザーガ(Chiquinha Gonzaga)の生誕を記念して、ジルマ大統領によって制定されたのです。

シキンニャは1847年にリオ・デ・ジャネイロで生まれました。ブラジルのカーニバルにおける代表曲のひとつになった『オー・アブリ・アラス』(Ó Abre Alas)は、彼女がつくった曲なんですよ。

政治や音楽だとかいった世界に女性がいる場所がないような時代にシキンニャは生きましたが、彼女は作曲家で指揮者であっただけでなく、時代の大きな社会的変化にもかかわっていたんですよ。

彼女が遺したたくさんの曲は、タンゴ・ブラジレイロやショーロやマルシャ(マーチ)といった様々なリズムを混ぜ合わせて、教養的なものと大衆的な音楽の橋渡しをしたのです。


シキーニャ・ゴンザーガ(Chiquinha Gonzaga)、本名はフランシスカ・エヂヴィジェス・ネヴェス・ゴンザーガ(Francisca Edwiges Neves Gonzaga)だそうですが、なんと1847年お生まれの方です。1947年ちゃいますよ。前々世紀のお方なんです。

こちらのページに日本語による詳しいバイオグラフィーと解説が載ってますので読んでいただくとわかりますが、ブルジョワ階級のお嬢さんとして生れつきながらも(というか、だからこそかもしれませんが)情熱と波乱に満ちた人生を送られた方のようです。

上のフォリンニャの記事にもあるように彼女はおそらくブラジルでもっとも早くにルンドゥ(Lundu)のようなアフリカ奴隷ルーツの音楽とヨーロッパ由来のクラシック音楽やワルツやポルカといった音楽をフュージョンさせて、マシーシ(Maxixe)やショーロ(Choro)といった後々にサンバやボサノヴァへとつながっていくブラジル独自のサロン・ミュージックの系統樹を発生させた先駆者であったと考えられます。

ブラジルポピュラー音楽における多くの優れた成果の源泉が、こういったアフリカとヨーロッパ音楽文化の融合によるものであることに異論のある人はまず居ないと思いますが、シキーニャがそれを成し得た理由のひとつはもしかすると出生の経緯にその秘密の一部があるのかもしれません。

というのは、彼女はブラジル帝国陸軍の将軍という非常に立派な血筋の父の娘でありますが、母親のホーザ・マリア・ネヴェス・デ・リマ(Rosa Maria Neves de Lima)さんは、貧しい家の出身でメスチッサだったとされています。

※メスチサ/メスチソ…白人とインディオ、あるいはアフリカ人など肌の色の混血した人の意味。この場合女性なので mestiça 男性だったら mestiço

歴史的に他の南米諸国に比べると混血にかなり寛容なブラジルですが、なにしろ19世紀半ばの上流階級の話ですからこの身分差婚には相当の風当りがあったらしく、フランシスカことシキンニャちゃんは両親が未婚のままの誕生となり、最終的に家族らの反対を押し切って正式な結婚が成立するまで生まれてから数ヶ月を必要としたようです。

これは私が勝手な想像と思いつきで推測してるだけですが、おそらく彼女の音楽性や生き様にはこの出生と母親の影響が少からずあったんじゃないかと思うんですね。9才にしてピアノを与えられ、当時の音楽界の鬼才といわれたマエストロ・ロボ(Maestro Lobo)の元で音楽を学ぶというような典型的な貴族的教育を受けて育ったシキーニャは11歳にしてクリスマスの演劇のために"Canção dos Pastores"という曲を初めて作曲します(作詞は彼女の弟)が、そんなころからシキーニャは庶民向けのルンドゥやウンビガーダ(umbigada)の集りにしょっちゅう顔を出していてアフリカ系リズムの音楽性に興味をひかれていたようです。

生涯を通して2000曲ぐらい作曲があるそうですが、そのごく一部は例えば Wikipedia のポルトガル語版のページや、現在遺品を管理していると思われる IMS (Instituto Moreira Salles、以前ご紹介したバーデン・パウエルやピシンギーニャの遺品も管理する研究財団)のシキンニャのアーカイブサイトなどで聴くことができます。

※IMSの Chiquinha Gonzaga アーカイブのリンクはここですが、開くといきなり音楽が鳴るので注意。
  いろんな曲を聴くには[Gravações diversas]/[Gravações recomendadas]/[Canções cançonetas]
  のどれか選んでから [Clique e ouça] をクリック


なお、録音は本人の演奏ではなかったり、音がえらく古くてもアレンジや楽器構成が実際の作曲時期のものより何十年も後のものがあったりする事に留意しながら聴く必要があります。

- アブリ・アラス -

これら大量に残された作品の中でも特に知名度が高いとされているのが、Folhinha の記事にもある "Ó Abre Alas"(オー・アブリ・アラス)で、これは今日に至るまで "marchinha de carnaval "(カーニバル・マーチ)の代表曲のひとつとして長く親しまれているものです。

マルシャ、あるいはマルシンニャは英語で言うマーチのことですが、いわゆるリオのカーニバルの映像なんかで見るようなメイン会場でコンテスト形式で観客に囲まれてパレードするサンバのテーマ曲はサンバ・ジ・エンヘードと言いますが、それとは別に普通に市民が街を練り歩いたりするときに演奏したり歌ったりする曲がマルシンニャ(marchinha)と呼ばれています。ものすごぉーく大雑把なイメージで言うと、エンヘードが学校対抗のNHK合唱コンクールのテーマ曲で、マルシンニャは学祭の吹奏楽部の演奏曲みたいな存在です。

"Ó Abre Alas" が有名な理由は曲の完成度や親しまれ度合いといった事ももちろんですが、これがカーニバルのマルシャの歴史上最初の曲とされているから、という事があります。

ブラジルのカーニバルは旧宗主国であるポルトガルからの移民がヨーロッパの習慣をもちこんだエントルードというお祭りが始まりですが、ブラジルの庶民の間ではドブの水をプッカケ合ったりバカ騒ぎしながら楽器を適当にバコバコ鳴らすようなお祭りになっていったらしいです。もちろん組織だったエスコーラもエンヘードもなく、特にカーニバル用にあつらえた曲もなかったので適当にありものの曲を鳴らしていたのですが、時代が下りシキーニャが活動していた19世紀末のブラジルではコルダォン(cordão, 現代のブロコとかエスコーラの原型)というグループでまとまって互いに対抗するような、現代のカーニバルの原型みたいなフォーマットができあがりつつあったということです。

そんな時代背景の中、シキーニャが住んでいた家の近所のアフリカ系黒人のコルダォンであった cordão Rosa de Ouro(ローザ・ジ・オウロ団、金の薔薇の意)がやっていたユニークなリズムと踊りに興味をひかれ、彼らのために作曲したのがこの曲『オー・アブリ・アラス』といわれています。

また、シキーニャの甥でジャーナリストのジェイサ・ボスコリ(Geysa Boscoli)の著作などによると、団長から直々に"ウチらのために一曲書いてほしい"と頼まれて作った、とも言われています(ちなみに Geysa Boscoli はロナルド・ボスコリ、いわゆるエリス・レジーナの元夫であるまさにそのヒトのおじさんにあたる人)。

いずれにせよ、この曲はコルダォン・ローザ・ジ・オウロのテーマ曲となり、ヒットを飛ばし何年もカーニバルのマーチとして使われて"最初のマルシンニャ"として歴史に名を刻むことになります。実際にはこの曲以前にもカーニバル用にあつらえたマーチ曲が作られた事もあったと思われますが、特定のコルダォン向けにカーニバルのマルシャ用の意図をもって作曲し、かつヒットした最初の曲としてその栄冠をつかんだわけですね。ここらへん、ボサノヴァにおける"Chega de Saudade"の立ち位置なども似たようなストーリーがありますし、おそらく他のジャンルの音楽にしてもそんな感じの話があると思います。

曲の演奏例はこんな感じです。



この録音は、この曲が総体として初めてきちんと録音された最初のもので 1971年の RCA/Abril Cultural レーベルで Linda e Dircinha Batista 姉妹が "História da música popular brasileira"『ブラジルポピュラー音楽の歴史』というアルバムに収録したものだそうです…っていうか、この情報、動画に1つだけついているようわからんどっかのオッチャンのコメントそのままパクりましたが、このオッチャン他にも古いレアもの録音の動画にやたらと詳細でマニアックな情報をコメントしてはるんですが一体何モンなんでしょうか…内容は非常に確からしいと思ったのでそのまま引用しました。

Youtube には他にもいくつか面白い演奏例がありますが、"Ó abre alas" で Youtube を検索するとトップに出てくる動画(これ)は、"Chiquinha Gonzaga - Ô abre alas ( marchinha de carnaval - 1939 )"などともっともらしいタイトルと画像がついているにもかかわらず、実は違うので注意です。

この検索で最初にでてくる動画の歌をオリジナル歌詞と照らし合わすとすぐ気がつきますが、微妙に似てるんですが歌詞も曲も違っています。動画のアップロード主も完全にウソをついているわけではなく、ちゃんと説明文では " J. Piedade と Jorge Faraj がシキーニャ・ゴンザーガのテーマを使って作曲"と書いてます。じつはこの曲は、シキーニャのオー・アブリ・アラスにインスパイアされてオリジナルの40年も後の1939年に作られた"Abre Alas"という曲です。

ちなみにシキーニャ版のオリジナル歌詞はこんな風です。

Ó abre alas
Que eu quero passar
おお!そこを開けろ、通しておくれ
x2

Eu sou da lira
Não posso negar
私は竪琴なんだよ、進まないわけにはいかない

x2

Rosa de Ouro
É que vai ganhar
勝つのは、ローザ・デ・オウロだ


はい、終わりです。ものすごいシンプルな歌詞ですね。これを一団が行進しながら繰り返し何度も演奏するわけです。

現代のサンバ・パレードでは『アブリ・アラス』というとこれだけで、パレードの先頭の山車と踊り子らを表す名詞になってるんですが、この時代のカーニバルにアブレ・アラスの役職が存在していたかどうか調べた範囲ではわかりませんでしたので、ここでは"abre"(開く)"alas"(列)を文法どおり解釈して、このように訳してみました。人の列を左右にザッと分けさせて真ん中を通っていくイメージです(今思いつきましたが、ひょっとするとこの曲のヒットがきっかけで、先頭グループをアブレ・アラスと呼ぶようになった可能性はあるかも…?)

唐突にでてくる『竪琴』はなんのこっちゃ意味不明な感じですが、ちゃんと意味があります。琴といってもいわゆるハープのことではなく(ハープはポルトガル語でharpa)、リュラーという、立ち位置としてはバイオリンやギターに近い存在の楽器のことです。で、このlira(もしくはlyra)という楽器はギリシャ神話の吟遊詩人という設定のオルペウス(いわゆるオルフェ)の基本装備楽器であったり、昔から詩人とか音楽家の象徴になるようですね。つまり詩と音楽で周囲を魅了する人、サンバに人生を捧げてるサンビスタのような人達のシンボルが『琴の人』なんですね。

歌詞の意味はようするに、"さあさあ我らが一団のお通りだそこのこけそこのけ、ウチらが一番になるぞぉッ!"ってな感じです。後々現代に至るまで100年以上もの間に作曲された数限りないカーニバル曲で歌われるテーマの、もっとも基本的な芯の部分を凝縮したまさにマルシンニャ第一号にふさわしい歌詞ですね。

- ブラジル映画祭2013 -

さてゴンザーガといえば、ルイス・ゴンザーガですが(とものすごく強引に話題を転換)、ブラジル音楽界っていろんなところで人脈がつながってるので、もしやバイアォンのゴンザガォンとシキーニャがどこかで血筋のつながりあるんちゃうやろか…?と、思いませんでしたか?じつは驚愕の事実があります。シキーニャ・ゴンザーガとルイス・ゴンザーガは兄弟なんです…

えええ!?年代がおかしいやん???すみませんフザケました。このシキーニャ・ゴンザーガさんは同名の別人です。というか『シキーニャ』はニックネームなので、厳密には同姓同名でもありませんね。

このバイアォンの王様の妹さんのシキーニャさんもまた兄の影響でアコーディオン奏者の歌手だったのですが、残念ながら2011年にお亡くなりになっています。

去年のブラジル映画祭ではウンベルト・テイシェイラの伝記映画でルイス・ゴンザーガを中心とするバイアォンのドキュメントが語られましたが、今月から来月にかけてのブラジル映画祭2013では去年の映画祭の記事でもちょっと触れました『ゴンザーガ 父から子へ(Gonzaga - De Pai para Filho)』という伝記映画がいよいよ日本で公開になります。これは『フランシスコの2人の息子』の監督がルイス・ゴンザーガの息子を軸にして彼らの音楽と人物像にスポットを当てたもので、昨年ルイス・ゴンザーガ生誕100周年を記念する映画としてブラジルで公開になった映画です。

他に今回の映画祭ではブラジル音楽関連の映画として『ウィルソン・シモナル〜スウィング! ダンス!! ブラジル!!!〜』『ハウル・セイシャス 〜終わりなきメタモルフォーゼ〜』がピックアップされています。どちらの人物についても半可通の私なんぞが語れるような話は何もないので、たまたま見つけた他所様の解説へのポインタを置いておきますね。

よそ様の勉強になるリンク
・ウィルソン・シモナルの参考
・ハウル・セイシャスの参考その1
・ハウル・セイシャスの参考その2


個人的にはゴンザーガも興味ありますが、ウィルソン・シモナルは必見かなーと思うております。例によって関東や九州はすでに日程終了しておりますが、こちら関西では今週の土曜10月26日から大阪、11月16日から京都の開催となっています。

ブラジル映画祭2013公式サイト: www.cinemabrasil.info

大阪のスケジュールはここ
京都のスケジュールはここ


大阪で見逃しても京都でフォローアップ、という手もありますが去年同様に京都のスケジュールは大阪より上映数が減りますので注意です。また映画によっては全日程で1回しか上映しなかったりするのでスケジュールをよく確認する必要があります。

とりあえず私は土曜か日曜に九条のシネヌーヴォーにいこうかな、と思うております。
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2013年09月30日

オスカー・カストロ・ネヴィスがLAの自宅でお亡くなりになられました

"Morre compositor, arranjador e violinista Oscar Castro Neves"
"作曲家、アレンジャー、ギタリストのオスカー・カストロ・ネヴィスが死去"

グローボサイトの Jornal Nacional の記事リンク(ニュース動画もあります)

作曲家/アレンジャー/ギタリストのオスカー・カストロ・ネヴィス(Oscar Castro Neves, 国際的には Castro-Neves 表記で知られる)がアメリカ合衆国においてお亡くなりになった。73歳でガン闘病中であった。

ボサノヴァの先駆者の一人でありカストロ・ネヴィス兄弟カルテット(o quarteto Os Irmãos Castro Neves)を1950年代に編成。

彼の作品・演奏は有名ジャズミュージシャンに認められ、アメリカ市場への扉を開いた。ロサンゼルスに永住を決め、長年にわたってブラジル人ミュージシャンや国際的なアーティスト達と演奏を続けた。


ボサノバの先駆者といわれる人は大勢いますが、例えばA.Cジョビンやジョアン・ジルベルト、ナラ・レオンといったようなステージの上で役者として激しい立ち回りを演じた面々がいた一方で、いわゆる『舞台裏の仕事』を引き受けて楽屋や舞台の袖で様子を見守りながらステージの成功を支えた方々もいます。オスカー・カストロ・ネヴィスは生来のミュージシャンでしたが、どちらかというと"舞台裏側"において重要な役割を担ってきた人物といえるかもしれません。

青年時代、ボサノヴァの黎明期からキャリアをスタートして近年に至るまで、そしてボサノヴァ的な内容からそうでないものまで、ブラジル、米国や日本など多岐にわたるミュージシャンのレコーディングのあちこちで彼の名前がクレジットされているのを見つける事が出来ます。

別のオ・グローボの記事で、オスカー・カストロ・ネヴェスとよく似た役割を担ってきた(しかし同時に"ボサノバ・オン・ステージ"の役者としても主役級である)ロベルト・メネスカル(Roberto Menescal)のコメントが載っていたので抜粋してみます。

"Morre Oscar Castro Neves, um dos precursores da Bossa Nova"
"ボサノヴァの草分けの一人オスカー・カストロ・ネヴィスが死去"
オ・グローボの記事リンク

作曲家、アレンジャー、そしてギタリストのオスカー・カストロ・ネヴィスがこの金曜に73歳で死去した。一番下の弟であるペドロ・パウロ(Pedro Paulo)によれば、数ヶ月間ガンの治療を受けていたが最後はロサンゼルスの自宅にて療養していた、とのことだ。

彼は1950年代にボサノバの先駆けとして兄弟のイコ(Iko, ベース)、レオ(Léo, ドラム)、マリオ(Mário, ピアノ)とともにカストロ・ネヴィス兄弟グループを結成した。

「オスカーと知り合ったのは彼が16歳の時だったな。若かったのに彼はすごく演奏が上手かったんだ。彼はいかなるときも優れたミュージシャンであって、後々にアメリカや日本での仕事にまで繋っていくキャリアを、しっかりと考えながらやっていたんだな。ブラジルの外へボサノヴァを知らめるという役割、それこそが彼の真髄だったんだ」と、ロベルト・メネスカルは言う。


ちなみに彼の最初の作曲にして代表曲のひとつでもある "Chora Tua Tristeza"(ショーラ・トゥア・トリステーザ)はロベルト・メネスカルと知り合った時期、16歳の時につくっているんですね。すごいです。


16歳のときカバキーニョ奏者でもあった彼は、バスで移動中に初めての作曲を開始した。家につくと真っ直ぐにギターへ向いメロディを書きとめた。そしてハーモニーをつけて、歌詞をつけるため友人で建築家のルヴェルシー・フィオリニ(Luvercy Fiorini)を呼んだ。

こうして"Chora Tua Tristeza"が出来上がった。それは1956年のことだったが、それからのちに友人宅でのセッションでアライジ・コスタ(Alaíde Costa)が指名してくるまでの3年間、まだ若かった彼は待たなければならなかった。その時、最初のLPである"Gosto de você"(1959)を発売したばかりであったアライジ・コスタは、二作目のLPのレパートリーを探しはじめたところだった。


"Chora Tua Tristeza" の作詞の Luvercy Fiorini を"建築家"と表記しているのが興味深いですね。Luvercy Fiorini 通称 Luva(手袋の意味)彼は他にも "Onde está você", "Morrer de Amor"(英語題は I Live to Love You) 等の有名曲をいくつも作詞・作曲していてミュージシャンでもあったわけですが、ボサノバムーブメントにかかわった有名人は元々建築家を目指している人が多かったり(シコ・ブアルキ、A.C.ジョビンなど)、ムーブメントのきっかけになった重要イベントが建築大学で行われていたりと、ボサノヴァと建築学には何か繋りの深い部分があります(おそらくオスカー・ニーマイヤーの存在が影響している、と私は考えています)。

アライジ・コスタから "Chora Tua Tristeza" を録音したいと依頼を受けた当時の彼はまだ楽譜に明るくなかったので、カルロス・リラのつてを辿ってネルシンニョ・ド・トロンボーニ(Nelsinho do Trombone)に編曲を依頼したそうです。最終的に完成した録音を聴いたオスカー先生は『自分の作曲がオーケストラ編曲になっているッ!!』と、ものすごく興奮したと生前のインタビューで語っています。

ちなみにこの録音は、アライジ・コスタの "Alaíde canta suavemente"(1960, RCA Victor/BMG BRASIL)というアルバムで聴くことができ、iTunes や Amazon のオンラインMP3ストアで買うこともできます。

参考: アマゾンMP3ストア "Alaíde canta suavemente"(試聴できます)

1950年代の半ばリオの南部地区(つまりボサノヴァの揺り籠であった時期と場所)が『カストロ・ネヴィス兄弟』の活動の中心地でしたが、弟達にせかされて一番上のマリオが、そのころはもう圧倒的な存在感があったA.C.ジョビン(当時30歳)におそるおそる電話してみると、なんとマエストロ・ジョビンが彼らの事を知っていてすぐに会いにきてくれたというぐらいに、彼らの名前はその界隈では有名になりつつありました。ロナルド・ボスコリ(Ronaldo Bôscoli, エリス・レジーナの最初の夫)と共作した“Não faz assim”を当時ガロットス・ダ・ルアを結成していたジョアン・ジルベルトが吹き込むなど彼らは着実にボサノヴァ勃興期におけるキャリアと人脈をひろげていきました。

そして1962年11月、ボサノヴァがアメリカとそれに続く世界におけるビジネス的成功の種をまき、またオスカー・カストロ・ネヴィス自身のボサノヴァ伝道師としての役回りを運命づける重要なイベントが発生します。

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アメリカNYはカーネギー・ホールにおける、超有名な歴史的ボサノヴァ・コンサートです。ここで始めてボサノヴァが、そのクリエイターたるブラジル人ミュージシャン自身の手によってアメリカ人ら(主にジャズメン)に公式に披露されボサノヴァを世界のビジネスの場へ売り出す先鞭をつけた、というのはボサノヴァの歴史関連の著述では繰り返しでてくる逸話です。

CD クレジットでも見てとれるようにオスカー・カストロ・ネヴィスはステージでの伴奏や自身のバンドのプレゼンテーションをこなしつつも、メネスカルやらカルロス・リラらの傍らでジョビンを始めとするミュージシャンたちのアメリカ滞在の都合や諸々の調整など、まさに『舞台の裏方の仕事』も引き受けていました。

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こうした仕事をしているうちに、オスカー先生の才能や作品もまたアメリカ人ミュージシャンの関心を惹きつける結果となって、やがてディジー・ガレスピーやスタン・ゲッツ、バド・シャンク等といった著名なジャズメンのサポートや共演をするようになっていきます。1963年に一旦ブラジルへ戻りアレンジャーとして仕事しますが、1967年にクアルテート・エン・シーとともに再び USA へ舞い戻って、そのまま最後までロスに居を構えて活動を続けました。1971年からはセルジオ・メンデスのBrazil'66のメンバーとして入り、1981年にグループを脱退するまで15枚のアルバムを録音しています。

述べたとおり、彼は非常に多岐にわたるミュージシャンと大量の仕事を残しています。ボサノヴァ好きの人だったらおそらくまず持っているアルバムと思われる超名作「Elis&Tom」(邦題:『ばらに降る雨』)これにもギターで参加しています。ジャズ系のブラジリアンミュージック好きの間で名盤と誉れの高いトゥーツ・シールマンス(Toots Thielemans)の"ブラジル・プロジェクト"(1992年)これのプロデュースはマイルス・ゴールドマンとオスカー先生です(オスカルとカナ表記されることも多い)。このブラジル・プロジェクトではもちろん演奏でも参加しています。

またロベルト・メネスカルと同様、日本における活動も非常に積極的な方でした(メネスカル先生のほうはご存命ですよ、念のため)。渡辺貞夫、国府弘子らのジャズ系ミュージシャンだけでなく大貫妙子など非ジャズ/ボサノヴァ系のミュージシャンとも色々と仕事をやっておられたようです。小野リサとも何度か共演してたと思いますが、だいぶ前の2000年前後だったか私が共演コンサートで見たときは体からほとばしる音楽の繊細さとアグレッシブさに感心しつつも、曲の間ごとに小野リサさんのかけ合い漫才のようなMCでいじられてるのが何ともチャーミングで、愉快な面白いオッチャンやなーと親近感がわいた思い出があります(それがきっかけでオスカー先生に興味を引かれてCD集めるようになりました)

訃報を知って新めて調べたり思い返したりして、そのあまりに幅広く長きにわたる仕事ぶりを見るにつけ、もしワタクシの個人所蔵のCD全部の参加ミュージシャン・クレジットを残らずカウントして出現数順に並べたら案外、オスカー・カストロ・ネヴィス先生が筆頭だったりするかもしれないな、などと思ったりします。

現にボサノヴァの歴史にかかわった"ボサノヴァの先駆者"でありつつも、"ボサノヴァ"という単語ではくくりきれないスケールの大きさを持って、しかし結局真髄の部分では"ボサノヴァ人"としての生き方をつらぬいた、そんな方であったように思います。

Descase em paz, maestro Oscar Castro Neves...
posted by blogsapo at 09:08 | Comment(0) | TrackBack(0) | MPB, BossaNova | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする